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事件が起こった日

金曜日の放課後、会長以外のメンバーが生徒会室にいた。
会長は途中で退席したまま帰ってこない。
期末試験も近いし、今日はこのぐらいで帰ろうと、副会長が提案したとき、
校内放送が流れた。
「生徒室に残ってる人は、全員職員室に集合してください」
会長の声だ。
あの人は突然いなくなって、何やってるんだろうと不審に思いつつ、
あたしたちは職員室へと向かった。

職員室の中には、会長と先生達と、警察官が2人いた。
なんで警察官が??
警察官の前に座り、涙ぐんでいる生徒が1人いる。
その人は生徒会風紀委員補佐で、よくあたしの面倒見てくれてる先輩だった。
あの先輩にかぎって、警察のお世話になることは無いと思うが・・・・
不審に思いつつ、あたし達は事情を聞いた。
その先輩は学校の帰り、CDを買いに行ったらしい。
そこで、悪い人4人組に1万円取られたそうだ。
その時、ナイフで少し制服を切られた。
切られたのは制服の肩の部分で、ケガはしていない。
まさに不幸中の幸い。
ケガしてたら大変だったもんね。
先輩は慌てて学校に戻り、先生に事の次第を告げ、今に至る。

現在は警察が事情徴収している最中。
あたし達は先輩を元気づけながら、警察とのやりとりを聞いていた。

そして、すべて事情徴収が終わり警官が帰ろうとしたとき、
「犯人を今から捕まえに行くんですよね」
会長がおもむろに声を上げた。
2人の警官は会長を見てから、
「大体の目星は付いてるから、後は調査しておくよ」
そう言って職員室から出ようとする警官を、会長は更に引き止めた。
「調査? なに言ってんのよ!! 
すぐに警官を総動員させて現場に行きなさい!!
まだ犯人は現場近くにいるかもしれないでしょ!!」

ビックリしたよ。
いつもフワフワでぽわぽわしてる会長が、
あんなキツイ言葉を警官にぶつけるとは・・・・
まったく別人みたい。
驚いたのは警官も同じみたいで、呆然とその場で立っている。
会長はそんな警官を無視し、どこかへ電話をかけた。
話の内容は聞こえなかったが、どうやら会長のお父さんに掛けてるみたい。

またまたビックリ。
電話から30分くらい経ったのち、職員室は警官でイッパイになった。
婦警さんも入れて12人くらい。
パトカーや警察の黒い単車が、校門前に数台止まってる。
なにやら大ごとになってきた。
だんだん不安になってきたあたしは、会長の手をずっと握ってた。
「会長、さっきの電話、誰に掛けたんですか?」
「ん~~? 内緒よ♪」
会長はあまり自分の事は話さない人で、突然みんなが驚くようなことをする。
不思議な人。
でもこの会話で、ちょっとだけいつもの会長に戻ったようであたしは安心した。

その後、警察の人達は犯人の捜索のため、現場へ向かう事となった。
あたし達は役に立つこともないので、ここで解散。
と、思ったら会長はすでにパトカーの後部座席に座ってる。
行くんかよっ会長!!
「のんちゃん、早く乗って!」
会長が手招きしてる。
おまけに運転席の警官のお兄さんも、ニコニコしながら手招きしてる。
ドライブに行くんじゃないんだから・・・・・・

今いる生徒会のメンバーは11人。
その全員がパトカーに乗れるわけもなく、代表して6人が乗った。
助手席に1人。後ろに5人。
明らかに定員オーバー。
いいのか警察?
普通に座ったら、後ろに5人も乗れないので、
あたしだけ何故か会長の膝の上に座らされた。
なんだかちょっぴり屈辱。
ちっちゃいって損だね。
窮屈な車内で押し黙るあたしとは反対に、警官のお兄さんは上機嫌。
「高校生とドライブなんて初めてだよ~」
「名前は何て言うの?」
「普段なにして遊んでるの?」
途切れることなくウザイ質問が来る。
こいつホントに警察か??
ウザイ警官を副会長が適当にあしらいながら、あたし達は現場へ向かった。

しかしあたし達が現場に向かう途中、あっさり犯人が捕まったと知らせが来た。
犯人は性懲りも無く、別の人からまたお金を取ろうとしてたらしく、
その現場を警察が発見したのだ。
めでたしめでたしだね。
犯人は高校生3人と中学生1人で、4人とも補導歴アリ。
今から警察署に連れて行って、二度とこんな事しないように、
しっかり指導すると、警官は言ってた。
被害者の先輩もお金が戻って納得してたよ。

これで一件落着と思ったが、そうはならなかった。
「犯人も捕まったし、あたし達はもう帰りませんか?」
そう言って、あたしは会長を見た。
「ダメよ。ここで終わらせたらダメなの」
「え? どういうことですか会長?」
会長は被害者の先輩と先生を連れて、警察官に喰ってかかった。
普段聞いたことの無い先輩の怒声が響く。
困った顔した警官と先生を尻目に、会長の抗議はしばらく続いた。

会長の進言で犯人の4人は、みんな少年院に送られることとなった。
犯人もまさか1万取っただけで、
人生狂わす事になるとは思ってなかっただろう。
少し気の毒なような・・・・
学校まで送ってくれる帰りのパトカーの中で、あたしは会長に質問した。
「会長、少年院に入れるなんて、なんでそこまで徹底的にやるんですか?」
「うん、それはね、抑止力になるからよ」
「キツイ罰を与えることがですか?」
「そう。 うちの学校の生徒に手を出したら、酷い目に合うってことを、
世の中に知らせる必要があるんよ。
そうしたら、こんな事件も減っていくわ」
「減りますか?」
「減ると願うしかないわね」
そう言って、会長はニッコリ笑った。

この判断が、最善の落とし所かどうか、あたしには分からない。
でも、会長が学校のみんなを思って下した決断を、あたしは支持する。
そして会長の行動が功を奏し、二度とこんな事件が起こらないことを願う。

by nonomiroom | 2007-12-02 04:06